国際法の法源


国際司法裁判所規定(抜粋) 採択1979年4月14日 発効1979年7月1日

38条 (法源)

1 裁判所は、付託される紛争を国際法に従って裁判することを任務とし、次のものを適用する。
a 一般又は特別の国際条約で係争国が明らかに認めた規則を確立しているもの
b 法として認められて一般慣行の証拠としての国際慣習
c 文明国が認めた法の一般原則
d 法則決定の補助手段としての裁判上の判決及び諸国のもっとも優秀な国際法学者の学説
2 この規定は、当事者の合意があるときは、裁判所が衡平及び善に基づいて裁判する権限を害するものではない。

59条 (判決の法的拘束力)

裁判所の判決は、当事者間においてかつその特定の事件に関してのみ拘束力を有する。


法源とは

 一般に「法源」という用語は、二つの意味で用いられ、「法の起源となるもののこと」または「法がどのような形で存在しているか」という意味で用いられる。本稿においては、「法がどのような形で存在しているか」、つまりは、国際法における法の存在形式について取り上げていく。

国際法の存在形式

 国際法の存在形式としては、「条約」と「慣習国際法」があげられる。「条約」と「慣習国際法」を補完するものとして「法の一般原則」、また、補助的なものとして、「裁判上の判決や国際法学者の学説」があげられている。

条約

条約の概念

 条約とは、「国家及び国際組織相互間において、当事者間に一定の権利義務関係を生じさせるために締結される明示的な合意」のことである。例えば、日米安全保障条約という条約の場合、日本とアメリカの相互間において相互の協力関係を取り決めた明示的合意であるといえる。

 当事者間の権利義務関係を明示したものとして、協定・取極め・規約・憲章・規定・宣言・議定書などが存在する。これらは、条約という名称をとらないが、条約と同じ法的拘束力(分りやすくいうならば、国際法上の性質及び法的効果)を有する。当然に、それぞれの名称ごとに大まかな使い分けが存在するが、それらの持つ法的拘束力に違いはないのである。ただし、「宣言」は国際法上の一方的行為として行われることが多く、その場合には法的拘束力は生じない。

 条約が形成されるためには条件があり、

  1. 条約締結の当事者が国際法律行為能力を有していなければならない。
    →「国家」もしくは「国際機構」でなければならないことを意味する。
  2. 条約締結の任にあたる者が、国内法上、条約締結権者としての法的資格を有していなければならない。
    →一般に、国家元首・政府の長・大臣・外交使節団などと呼ばれる者を意味する。
  3. 条約を締結する当事者の間に、合意が存在しなければならない。
    →脅迫や錯誤などの状況下にあってはならないことを意味する。
  4. 条約の目的・内容が正当なものでなければならない。
    →不当なことを正当化するために作られてはいけないことを意味する。

とされる。

 また、条約は、基本的には書面の形式をとるべきであるとされている。しかし、上述の条件を満たしている、つまりは、当事者間においてなされた「合意」が有効なものであるならが、条約は必ずしも書面による必要がないとされ、実質的には書面であるか否かは問われない。

条約の成立手続き

交渉 → 採択(第9条) → 確定(第10条) → 同意の表明(第11条、12条、13条) → 同意の承認(第14条、15条) → 文書の交換・寄託(第16条) → 発効(第24条)
なお、括弧内は、「条約法に関するウィーン条約」の条数。

採択
条約の形式と内容を定めるための手続きのこと。二国間又は少数国間条約の場合、基本的に全会一致によってなされる。多数国間条約では出席かつ投票する三分の二以上の多数決で採択される。
確定
条約が規定する権利義務関係を最終的なものとして決定すること。確定後の条約の内容は真正かつ最終的なものとなり、確定後の変更・修正などは別途手続きを経ない限り認められない。
同意の表明
条約内容に対する同意の意思表明を表す。同意の表明は署名、文書の交換、批准、受諾、承認、加入の方法が可能であるが、署名が一般的である。署名の場合、条約に拘束されることを示すものではない。ただし、条約内容の軽微なものや条約作成参加国の少ない場合など、簡略形式での条約の成立を条約文中に規定する場合には、この時点で成立する。
同意の承認
同意の承認は、国家が条約に拘束されることを国内で同意することの確認である。同意の承認は、批准、受諾、加入の方法が可能である。
文書の交換・寄託
文書の交換・寄託により、国際的に同意することへの最終的な意思表示を行う。
発効
条約が規定する権利義務関係が実際に当事国間において法的拘束力を有する状態になることを言う。

 なお、条約の内容に対する留保がある場合には、条約への署名、批准、受諾、承認、加入の際に、留保を表明することができる(条約法条約第19条)。また、国家が拘束されることへの同意の表明をしており、且つ、発効前である場合、その国家は、条約の趣旨及び目的を失わせるような行為を慎む義務が生じる(条約法条約第18条)。

慣習国際法

慣習国際法の概念

 慣習国際法とは、同法を裁判適用法規として認めている国際司法裁判所の定義によれば、「法として認められた一般慣行の証拠としての国際慣習」であり、一般に慣習国際法が成立するためには、客観的・事実的要素としての「一般慣行」と主観的・心理的要素としての「法的信念」の二つが必要とされている。

「一般慣行」
統一的な行為(作為・不作為)が、公判かつ長期にわたって繰り返されることを言うが、完全な画一性が求められるわけではなく、またすべての国家によって行われる必要もなく、一般的な一致と主要な利害関係国の参加があればよいとされる。さらに時間的経過についても、形成されようとしている慣習法の対象によって一律ではなく、きわめて短期間の間に慣習法が成立することもある。
「法的信念」
国家によってなされた行為(作為・不作為)が、法的権利義務の概念を伴っているという規範的意識をいい、国家実行が繰り返されていく中で次第に形成されていくとされる。国際法においては、黙示の合意というものが重要な役割を果たし、他国のとった行動に対して、相当期間内に意義を述べない場合、その行動に対して黙示的な合意が認められ、法的信念への一つの目安となるのである。

 条約の成立要件が当事国間の明示の合意があり、ある権利義務関係に対して明示的に合意した国家を法的に拘束する成文法であったのに対し、慣習国際法は条約と同等の権利義務関係を明示的・黙示的を問わずに合意した国家を拘束する不文法であるといえる。ここで、国際法の性質について、強調しておく必要があるが、国際法は規範的な性質のものではない。あくまでも、国際法は拘束されることへの合意がある権利義務である。つまり、慣習国際法であると認められた権利義務であったとしても、慣習法の形成過程から反対し続けている場合には、その適用を受けないという例外が存在するのである。これを「一貫した反対国に対する慣習法の不適用の原則」というが、この点については項を改めたい。

慣習国際法の法典化

 慣習国際法とは存在しているのか否か不明であることが多く、それゆえ、もっぱら国際紛争・国際裁判を通じてその存在が確認されるということが多かった。確かに、このような慣習国際法の不明さ・曖昧さは変動の激しい国際社会において柔軟で弾力的な対応を可能とし、今日まで国際法の法源として重要な役割を担ってきた。

 しかしながら、成立の時期も、必要とされる時間も不確かであり、その規範内容も不確かであることは「法」として欠陥であることはいうまでもない。このような慣習国際法の構造的欠陥に応えるべく、国際連合の国際法委員会では慣習国際法の法典化を進めている。条約によって既存の慣習国際法を宣言し、あわせて新たな慣習国際法を提示しようとすることである。条約法条約はその典型的な例であるといえる。ただし、国際法委員会の役割は慣習国際法の法典化のみではなく、国際法の漸進的発展を目指すことも役目として負っており、現在法典化作業中の国家責任条文草案は漸進的すぎて、一つの学説に過ぎないとの意見もある。

法の一般原則

 法の一般原則とは、国際司法裁判所規定によれば、「文明国が認めたほうの一般原則」ということであるが、換言すると、法体系の異なる諸国間でも共通に認められている国内法の原則をいう。例えば、信義誠実の原則・黙認の法理・禁反言の原則といったものがそれにあたる。また、一部の論者の中には、国際法上の一般原則だという者もいるが、単にどちらが正しいという問題でもない。国際司法裁判所は、条約法と慣習法の欠缺を補完するために用いている。

実質的法源と形式的法源

形式的法源
条約と慣習国際法と法の一般原則をさす。
実質的法源
それ自体即座に国際法上の法的拘束力を有するものではないが、形式的法源である条約の成立を促したり、慣習法の法的信念となる効果を持つといえる。

以下、実質的法源と考えられるものについて軽く触れる。

判例・学説

 国際司法裁判所の判例や勧告、国際法学者の「学説」は、これだけでは実質的法源とはなりえないが、条約や慣習国際法の内容の解釈を決定するための補助的手段とされており、重要な形式的法源の役割を果たす。

ソフト・ロー

 ソフト・ローとは、国際機構の特定の宣言や決議のようなものを表す。これは、当然に法的拘束力がなく、明確に非法律的なものとして起草されている。それにも関わらず、今日的には、国際経済法及び国際環境法といった分野で、国際行動の指針としては重要な役割を果たしている。人権宣言のように、起草から相当期間置いた後に慣習国際法の形成に関わる実質的法源として援用されることがありうる。

衡平と善

 衡平と善は国際司法裁判所規定38条2項に規定されていて、国際法においては「正義」と同義で使用される。当事者間の合意がある場合にはこの原則により、裁判することが可能となるのである。近年、国際法における衡平の意味は、二つの文脈で論じられている。第一は、国家間の海洋境界画定への衡平原則の適用である。第二は、豊かな国と貧しい国の間で、公正な富の分配が行われるための、新国際経済秩序への衡平原則の適用である。これらは法の一般原則として考えられる場合もある。しかし、倫理的価値基準の異なる国際社会においての適用は実質的に困難な場合が多く、法源としての役割がそれほどあるかは疑問とされる。

参考文献

history of update
ver.1.20/2004.02.10 modified the procedure of making treaties, added links and corrected errors.
ver.1.10/2004.01.10 added table of contents.
ver.1.00/2003.10.16 opened to the public.


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