アフガニスタン・テロ報復爆撃〜国際法上の問題

はじめに

 現在、テロという用語は一般的によく使用されるようになったが、国際法上のテロに関する明確な定義は存在せず、検討段階であるといえる。『現代用語基礎知識2001』によると、「テロ」は以下のように定義されている。

「暴力やその脅威を利用した反政府的暴力主義。恐怖政治。略してテロ。動詞にしてテロる。」

 1960年代以後、テロ行為はハイジャックや人質行為といったものであり、個人対国家というものであった。国際法においては、それらのテロ行為を諸国の共通利益として、確実に裁く法制度を確立しようとした。

 しかし、1980年代になるとテロ行為はネットワーク化し、国家が支援や後援を行うようになる。それは国家の国際テロへの関与であり、一国の他国に対する攻撃の一手段という側面と持つようになり、国家対国家という関係に変わってきたのである。このような国家対国家という状況においては、テロ行為を国際刑事法で規制することに限界が生じ、アメリカではそれを戦争の一手段と認識することにより、1986年リビア爆撃、1993年バクダッド攻撃、そして、アフガニスタン爆撃のようなテロに対する「報復爆撃」を行うようになっていった。今回はこのテロ報復について検討する。

 国際法において、このような「報復爆撃」は武力復仇の性質が強く、国連憲章第2条4項により、明確に禁止された武力行使であると主張され、アメリカの報復攻撃の合法性が問題となっている。アメリカは、唯一武力行使が許される国連憲章第51条の個別的自衛権(イギリスは集団的自衛権)を援用し、報復攻撃の合法性を主張している。これはアメリカがテロに対する報復爆撃の際の一貫した解釈であるが、この報復攻撃が自衛権の行使と認められうるかが問題となる。

自衛権とは

 元来、自衛権は自己保存権によって保障され、主権を守るために最小限必要な国家の正当な権利として、自然法的発想から生まれたものであり、戦争の正当化事由ともされてきた。そして伝統的国際慣習法の下では、外部から差し迫った侵害があれば自衛権の行使が許されると解されていた。

 しかし、1929年の不戦条約、国連憲章及び1972年の友好関係原則宣言などによる戦争の違法化が進み、自衛権の範囲も制限されていったのである。一般国際法上、「急迫不正の侵害に対し、やむを得ない限度で反撃する」というのが、憲章上唯一許される武力行使としての自衛権の本質であり、自衛権の行使には「急迫性」「必要性」「均衡性」が要件とされている。

アフガニスタン報復爆撃への考察

 ここで、アフガニスタンへの報復攻撃で、アメリカの主張する自衛権援用論をその要件に照らし合わせて検討してみる。

「緊急性」

 この点が、一番の問題点をはらんでおり、批判の多いところである。国連憲章第51条にいう「武力攻撃が発生した場合」にのみ自衛権を認めるという規定は、専制自衛を認めず、即時性を要求するものであり、違法武力復仇に当たるという主張や、テロ行為が、第51条にいう「武力攻撃」には当たらないという批判があり、アメリカの合法性を疑うものとされている。

 しかし、アメリカは今まで、報復爆撃に際し、「継続するテロリストの攻撃にさらされている国家は、更なる攻撃に対して防衛するため、適切な武力行使で対応することができ、これは、国連憲章で承認された固有の自衛権の一側面である」とし、「急迫性」の要件を満たしていることを主張している。専制自衛の概念に関しても、不戦条約時から一貫して、その権利を留保していると主張する [1]

「必要性」

「友好関係原則宣言」や「国際テロリズムを排除する措置に関する宣言」において、テロ行為の支援・後援・容認などを慎む義務、テロ防止のため国際協力する義務を負っており、これらの原則は9月12日の安保理決議1368でも確認されている。タリバン政権は、イスラム原理主義組織アルカイダの容認などを行っており、また、テロ防止のためのビン・ラディンの引渡しを拒むなど、国際協力を拒否していて、テロ再発の可能性を保持しており、その必要性があるといえる。

「均衡性」

 通常、均衡理論は、合法性の主張援用のために用いられ、極端に逸脱する場合を除けば、要件としての存在が無視されるのが現実である。また、筆者にとって、軍事的均衡性に関して、知識を持たないのも事実である。

 以上、アフガニスタン空爆の自衛権要件への当てはめを行ってきたが、結局のところ、国際法の柔軟性があだとなっている部分が大きく、合法か違法かという議論を引き起こしているといえる。

報復攻撃の非違法性・非合法性

 本項においての報復爆撃の合法性について、先に結論を述べると、アメリカの報復攻撃が違法だとはいえないが、合法だともいえず、あえて、何かを主張するのであれば、筆者は許容されるべきだろうという見地に立つ。許容されるべきである理由は後述するが、まず、アフガニスタン空爆の非違法性および非合法性について検討する。

報復攻撃の非違法性

 この報復攻撃に対して、安保理を始め、国際社会のほとんどの国が、このアメリカの実行を支持もしくは黙認(国際法において支持だけでなく、黙認も大きな国家実行である)しているということがあげられる。これらは、テロ行為が自国に及んだときの正当化事由を残しておきたいという政治的意図もあるが、テロ行為の重大な違法性を考慮にいれているといっても良い。また、反対国の論理を紐解いてみると、具体的状況、自らへの適用の回避を主張しているだけで、適法性の問題については言及していないのである。結局、テロに対する自衛権援用による武力行使の理論自体を否定してはいないのであり、このアメリカの行動が一つの国家実行となり、リビアなどの事例から繰り返し行われていることへの国際法への影響は考慮されなければならないだろう。

報復攻撃の非合法性

 非合法性に関しては、自衛権の拡大解釈によって、事実上の違法な武力復仇を行っていると主張されること、及び、アメリカの主張のレトリックは、ある意味で完璧であるが、通常においては、多くの国家が異を唱える論理であることからいえる。これらは、現在の国連安全保障体制の不備、つまりは、国連が当初予定していた国際の平和と安全に対する脅威を認定し、強制行動を決定することとし、その決定までの間の自衛権を認めるという国際組織による武力行使の統制が、冷戦時代の安保理の機能不全により、うまく機能しなかったことに起因する。このような長期にわたる機能不全の中でも、戦争の違法化という崇高な理想のみが先行し、その一方で、武力行使の唯一の手段を自衛権に限定したため、本来、国連軍が行うべき平和回復の部分が、事実上空白になり、自衛権の制限的解釈と、広義の解釈との対立を深めてしまったものであるといえる。

「対抗措置」概念による展開

 国際社会は、武力行使の正当性を自衛権にのみ求めるあまり、国家の国際責任への責任解除としての武力復仇の援用をし損ねてきた。しかし、自衛権による限界を感じてきていた論者は、「対抗措置」としての武力復旧の可能性を考慮するようになり、国家責任条文草案において「対抗措置」に、武力復仇が含まれるかが議論されてきた(2001年採択草案では、「国連憲章に具体化されるような、武力の威嚇や行使禁止の義務」に違反する行為は、対抗措置としてとってはならないことが明確に規定されている)。

 対抗措置とは、他国が何らかの国際違法行為を行った場合、その被害国は一定の条件の下、国際違法行為により反応することができるというものである。武力に対する反応としての「自衛」と「対抗措置」は、国家が、国際違法行為を受けたことを契機として行動を起こす点では共通しているが、自衛は「攻撃的」武力行使に抵抗する「防衛的」手段として使用されるのに対し、対抗措置は「事後的に」適用し、「処罰」することを目的とする点で異なっているのである。

 この対抗措置は、条文のタイトルが当初「制裁」という名称であったように、国際組織の決定に基づく「制裁」をも含みうる概念であるとされている。「復仇」という概念が、基本的に未組織国際社会を前提として、二国間関係において執られる措置であるのに対し、「対抗措置」概念は、国際社会が国連をはじめとする国際組織に組織化されている状況の存在を前提に、国際組織の決定や勧告に基づき、その正当化を図っているのである。

 ここで述べた「対抗措置」概念を、次に述べる国際組織の強制システムに導入するものとして考えたい。

結びに変えて:国際組織の強制システムによる展開

 現在の武力行使の規制システムは、「事実上の戦争」の禁止を目標としているに過ぎず、国際法の強制システムを十分に考慮したものではなかった。そのため、時として、武力行使による強制行動が必要なとき、自衛権の広義の解釈を援用することとなっていった。そして、自衛権の広義の解釈が、現在において、事実上、国際社会の強制システムとしての暫定的代替機能を果たしているといえるのである。このため今回のような報復爆撃は許容されるべきであるとするのである。

 しかし、この不健全な状態は改善されなければならない。「自衛」としての武力行使を現時点においては許容するとしても、そのような被害国による一方的認定は「濫用の危険」をはらむものであり、これらの武力行使を統制する「制御システム」整備をする必要がある。具体的には、安保理の決定によらなければならない憲章第7章によらなければならない強制措置を、テロに対するものに限定した上で緩和し、「自衛権」とは明確に区別された「対抗措置(国連の安保理又は『総会』による勧告を要件とする)」の検討はいかがなものだろうか。

 国際社会が、国際テロを抑止するための国際法強制システムを確立すれば、自衛権の主張は縮小する可能性があり、国際テロを防ぐための実効的な執行・強制システムを整備しきれない現在、国際組織によるコントロールシステムの確立、国際違法行為の一方的認定の濫用を防ぐための「制御システム」の整備が必要であり、早急の課題であるといえるだろう。

参考文献



[1] 不戦条約に関しては、元々自衛権に関して、何も触れていない。国連憲章第51条に関しては、起草当時、「専制自衛の禁止」が明示されていたが、最終的に削除されたことから、国家固有の権利として留保されているとの解釈。友好関係原則宣言に関しては、「武力による対抗措置(武力復仇)を慎むこと」という文言も、専制自衛を禁止しているとはいえないとの解釈。これらにより、専制自衛の禁止が慣習法化しているとしても、一貫した反対国に対する慣習法の不適用の原則という国際法の抜け道を利用したレトリックとして、違法性を免れるものとして完璧であるといえる。

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