核兵器〜核廃絶への動向

はじめに

 これまで、核兵器は無差別殺傷破壊兵器として世界中の人々に認識されてきた。しかし、その全面的な廃棄という提案に対しては意見がまとまることがなかった。それは、核兵器の威力が壮絶であるがゆえに、核兵器国の戦争への関与を抑制するという働きがあるからである。それは、第二次大戦のアメリカの核兵器使用以来、核兵器が戦争において使用されなかったことや、核兵器国同士の戦争という事態に至らなかったという事実からも実証されたといえる。従って、今回は核兵器の持つ働きを考慮しつつ、核廃絶への動向を考察したい。

これまでの各国の動向

 第二次世界大戦においてアメリカによって使用された核兵器は、その威力から世界を震撼させ、各国を各軍機競争へと駆り立てることとなった。その後、保有数において優位に立つアメリカを、ソ連やイギリスが追いかける形で激化していった。

キューバ危機〜核抑止論の実証

 1959年キューバでは革命によって新政権が成立し、政府がアメリカ系資産を接収したためにアメリカとの関係が悪化、急速にソ連に接近していった。1962年アメリカの偵察機によってソ連の核ミサイルがキューバに配備されているのが発見され、米ソによる核戦争の開始かという危機に陥った。しかし、核戦争の開始か、キューバからのミサイルの撤収か、という選択を迫られたソ連は、核兵器数において圧倒的不利な自国の立場から撤収を余儀なくされた。この頃は、核兵器の圧倒的保有を利用したアメリカの一方的な押さえつけの段階だが、核兵器の存在が戦闘を回避する役割を果たしたということから、核抑止論が実証されたといえる。

 この事件によって核戦争という自体が現実味を帯びてくると、無制限な核軍拡競争に対する各国の意識にも変化が現れた。さらにフランス及び中国が核実験に成功したことで、核戦争の危険性が高まり、これ以上の核兵器国の出現を防ぐ条約の締結が望まれるようになった。

核不拡散条約(NPT)

 この条約は「核兵器国」を米・ソ・英・仏・中の五カ国に限定し、核兵器国に対して核兵器の管理の委譲や非核兵器国の核兵器取得の援助などを禁止するとともに、核軍縮交渉の義務を課すものである。また、非核兵器国には、核兵器の製造や取得などの行為を一切禁止した。しかし、この条約は核兵器国と日核兵器国という差別的な関係を作り出すものであり、核兵器国に対しては、核兵器の保有・開発・非核兵器国への核配備も禁止されないというものであったため、条約の無期限設定には当初合意が得られなかった(1995年のNPT再検討・延長会議において無期限延長が決定されている)。

 その後、米ソ両国はお互いの核兵器による攻撃能力が拮抗したことから、NPTの義務に従う形で核軍拡競争に制限を課すための交渉を持つようになった。しかし、これらの交渉によって生まれた条約も実質的な核兵器の制限には至らず、逆に核抑止の効果を高める条約の締結によって核兵器の意義を強調することになってしまった。

核弾道ミサイル条約(ABM条約)

 この条約は、弾道ミサイルからの自国の防衛手段としての迎撃ミサイルや、その発射機、弾道ミサイル探知のためのレーダーの配備を禁止している。同条約の目的は相互に自国防衛手段を放棄することで、相手の報復措置を効果的にし、自国及び相手国の軍事行動を抑制することである。

 このようにして、核抑止理論は実証され、その効果から核戦争を防ぐ唯一の方法として、強化・維持されてきたといえる。そして、冷戦の終結後の実質的な核兵器削減が実行に移されている現在においても、核抑止の効果に支障をきたすような規模の核兵器削減には至っていない。

核兵器の違法化

 核兵器による威嚇・使用の違法化を目指して、フランスの南太平洋での核実験に反対するニュージーランドの市民グループが動いた。この活動は拡大し、各国の支持も得て世界法廷プロジェクト(WCP)へと発展していった。WCPは核兵器の違法化を目指して、国際司法裁判所に勧告的意見を求めることを決め、国連総会での可決を各国首脳に打診、その結果、1994年の国連総会で勧告的意見が要請され、1996年に勧告的意見が出された。

国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見

 この勧告的意見は、核兵器による威嚇・使用が一般的に違法であるとの判断を示している。この意見に対して、核兵器国は、極限状況において、核兵器の使用は合法であるとの見方をとり、核兵器保有の正当性を主張している。しかし、意見においては、極限状況においても自衛の手段に限られているうえ、その状況においても、核兵器の使用が合法とは断定しておらず、核兵器の違法性を強く印象付ける意見となったといえる。ただし、勧告的意見はその性質から、法的拘束力を有するものではなく、あくまで権威ある意見にとどまるのも事実である。

英・マンチェスター刑事裁判所の判決

 2001年1月に、女性二人が英国北部のバロー基地に停泊中の格闘際原子力潜水艦を金槌で壊そうとした事件で、裁判所は「核兵器は国際法上違法だから、破壊するのは正当な行為」と主張する被告に対し、無罪判決を言い渡した。

 このように、ICJの勧告的意見は核兵器の違法性を国際社会に強調する役割を果たしたが、他にも、勧告的意見からは、核兵器の先制不使用の原則が導かれるといえる。この原則は、核兵器を相手国の核攻撃に対しての反撃にのみ使用するというもので、核抑止論の正当性を主張する核兵器国にとって受け入れるべきものである。しかし、核兵器国の中では唯一中国が宣言しているにすぎない。なぜ、うけいれられないのか、その理由は「核兵器のもたらした悪循環」で後述するとして、現在の国際社会の核廃絶への取り組みを見ていく。

核廃絶への試み

包括的核実験禁止条約(CTBT)

 CTBTは締約国に対して、核爆発を伴う核実験の行使をいかなる場所においても禁止するものである。しかし、あくまで、「核爆発の伴う核実験」を禁止するものであるため、核爆発の伴わない実験(未臨界実験やコンピュータ・シュミレーション)、核爆発実験の準備は禁止の対象には含まれず、核実験場の閉鎖も課されていないため、核爆発を伴わない核実験によって核開発を進める技術を持った核兵器国の核開発を容認すると共に、脱退後、即座に核実験を再開することができる環境を維持することになるという問題点がある。

 また、この条約の発効には、核兵器国及び核開発能力を持つ国44カ国全ての批准が必要とされているが、アメリカが批准しない方向にあるなど、発効が危ぶまれている。

核兵器用核分裂性物質の生産禁止に関する条約(カットオフ条約)

 この条約は、核兵器の開発・生産に使用されるプルトニウムや濃縮ウランの生産を禁止するもので、核兵器国が既にこれらの物質の生産を停止していることから、その主たる目的は、インドやパキスタンといったNPT未加入の核兵器国による、核兵器の生産を停止することにあると考えられる。

 しかし、この条約もCTBT同様発効が危ぶまれている。

 また、禁止の対象が、新規の核物質の生産だけでなく、現在核兵器国が保有している核物質にまで及び削減されることになれば、これ以上の核兵器の増大を防ぐとともに、核軍縮措置としての面も持ち合わせることとなり、今後のこの両面を持つ条約の成立に向けた交渉が期待されている。しかし、原子力発電所などでの平和利用のためにもプルトニウムや濃縮ウランが使用されるため、核兵器への転用の危険性はなくならないのである。

核廃絶への歩み

信頼醸成措置

 信頼醸成措置は、主に対立する国家間の緊張状態を緩和させ、その結果として軍事行動の抑制そして軍備縮小の促進を期待するものである。その例としては、米ソ間で結ばれたホットライン協定や全欧安保協力会議で採択されたヘルシンキ宣言などがあげられる。ホットライン協定は、核兵器の誤発射による核戦争の勃発などという偶発的な事態を回避するため、両国間に常備無線及び優先の直通テレタイプ回線を設けたものである。また、ヘルシンキ宣言は、押収の緊張緩和を図るために大規模軍事演習の事前報告や、軍事演習における視察員の受け入れなどを欧州各国に求めるものである。

 信頼醸成の結果、核軍縮にまで進展したのが、アルゼンチンとブラジルの例である。両国は南アメリカにおける覇権を争い、原子力平和利用と称し核開発を進めていた。しかし、冷戦終結後、共通原子力政策に関する共同声明に署名し、相互の現地査察などの行使を認め、お互いの軍事活動の透明化を図ったことから、両国による核開発の放棄、南アメリカの非核兵器地帯としての地位を確立するに至った。

非核兵器地帯の設置

 非核兵器地帯は、その地域を核兵器の存在しない状態に保つべく設置するもので、現在4つの非核兵器地帯が設置されている。この核兵器地帯では、締約国による核兵器の製造・取得及び核実験の行使を禁止し、第三国による地域内への核配備も禁止される。また、核兵器国に対して、非核兵器地帯として地位を尊重し、かつ、地帯内の諸国に対して意核兵器による威嚇・使用を行わないように求めており、核兵器国もこれを受け入れている。

 このような非核兵器地帯の設置は、隣接する諸国家の相互不信感を取り除き、核の拡散を防ぐとともに、核の存在を減らし、核の使用を困難にさせるものである。したがって、核戦争の危険性を回避するためにも、これ以上の核兵器国の出現を防ぐためにも、さらなる非核兵器地帯の設置が望まれる。

核兵器のもたらした悪循環

 まず、インド・パキスタンについて検討する。インドは現在、NPT未加入の核兵器国であるが、インドは今まで核廃絶に向けて核条約の不平等さを訴えてきた。例えば、NPT締結時には、同条約が核兵器国と非核兵器国という不平等な関係を作り出すものであると主張し、署名を拒否している。また、CTBTの採択においても、核兵器国にのみ可能となる「核爆発を伴わない核実験」も禁止の対象に含めない条約の締結は、核兵器国の核開発を容認し、核廃絶に向けて何の意味も持たないとして反対票を投じている。

 インドは1998年に核実験を行使し、核兵器国への道を選択した。それは、隣接する国家に中国という核兵器国の脅威があったからだといえる。1995年のNPT無期限延長の決定により、容認された核兵器国と容認されない非核兵器国としての立場が、中国との間に固定化されてしまうと考えたためである。これを追いかける形で核実験を行使したパキスタンも、カシミール地方を巡るインドとの関係悪化から、インドの核兵器保有に対する自国の安全保障を理由としている。

 また、アメリカの本土ミサイル防衛構想により、中国も核軍縮に対して後退の姿勢を見せている。本土ミサイル防衛とは、大量破壊兵器から本土を防衛するため、ミサイルを空中で打ち落とすことのできる迎撃ミサイル網を配備しようというものであり、前述したABM条約にも違反し、核抑止の関係を崩すものである。中国は、アメリカの仮想敵国が自国であると考え、核軍備増強の可能性を示唆している。仮に、中国が核軍拡を進めればロシアも黙っていないだろう。

 核兵器全廃の実現には、全世界的な信頼醸成が必要であるのだが、仮に作り出された信頼が永久に保持され続けるのかどうかの保証もなく、また、一度手にした核兵器国の優位性を手放すというのは、困難なことである。CTBTですら発効できず、核抑止の傘の中から抜け出せない現状からは核兵器全廃は夢のまた夢であるといえるだろう。

参考文献

history of update
ver.1.11/2004.01.23 modified the title.
ver.1.10/2004.01.10 added table of contents.
ver.1.00/2003.10.16 opened to the public.


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