海洋法〜国連海洋法条約を中心として

海洋法の歴史

海洋法が発展していくきっかけとなったのは中世後半、大航海時代のスペインとポルトガルが全世界の海洋二分割をした頃である。古代から中世前半にかけては、海洋は万人の共有物であると考えられ、海を領有する主張はなされなかった。

 その後、グロティウスなどが海洋に関する考えを主張し始め、18世紀に入ると、領海に関する問題への取り組みが活発化した。20世紀入ると、領海の幅に関することを中心に、1930年のハーグ国際法法典化会議、1958年の第二次海洋法会議、1960年の第二次海洋法会議と、国際会議の場において海洋法が議論されるようになった。

 1960年代以降、アジア・アフリカ諸国が次々と独立し国際社会が大きな変化を迎えると、それまでの海洋に関する規則の全面的な見直しが求められるようになった。そこで、1973年に第三次海洋法会議が開かれ、1982年「国連海洋法条約」が採択され、94年に若干の修正を加えて発行された。

領海

 領海とは沿岸国の領域主権がおよぶ海域のことである。

領海の幅は、基線から12カイリ以内の範囲で沿岸国が定めることができ、12カイリを超えると国連海洋法条約違反となる。領海の幅を測定する際に起点となる線を基線といい、通常は沿岸国の海岸の低潮線がその基線となる。海岸線が著しく曲がっている場合は、適当な地点を選んで直線の基線を引くことができる。

また、特徴的な基線の引き方をする地形に湾がある。湾はその入口に線を引き、湾の面積が、線を直径とする半円の面積よりも広い場合にのみ湾とみなされる。

無害通航権

 領海はその沿岸国の主権がおよぶが、あらゆる国の船舶が、海上交通の便宜上通航する事ができる。これを無害通航権という。この通航の際には、沿岸国の平和・秩序・安全を害さずに通航するとともに、継続的かつ迅速に航行を行わなければならず、特別な場合以外は投錨や停船はできない。また、潜水船は浮上して、浮上し且つ国旗を掲げて航行しなければならない。

 沿岸国は無害通航に関する法令を定め、航路帯を設定することができる。沿岸国は無害通航を妨害することはできないが、自国の安全を守るために不可欠な時は、差別無しに無害通航を停止させることができる。

接続水域

 接続水域とは領海の外側の12カイリ(たいていは沿岸から24カイリ)以内に定めることができる海域のことで、「通関」「財政」「出入国管理」「衛生」の法令違反を防止するために設定されたものである。前記の4つの法令に違反したときは、沿岸当局の船によって拿捕され処罰を受けることになる。

排他的経済水域

 排他的経済水域とは、領海の外側にあって、領海の基線から測って200海里までの距離内で設定される水域のことである。排他的経済水域には以下の規定がある。

沿岸国の持つ主権的権利としては

  1. 海底、その下及び上部水域の天然資源を探査・開発し、保存・管理する権利
    ex)漁業、石油の採掘、漁獲高や採掘計画の設定
  2. 沿岸国の持つ管轄権

また、他国の持つ権利としては、

  1. 航行
  2. 上空飛行
  3. 海底電線の敷設
  4. 海底パイプラインの敷設
  5. 1〜4に関連する国際的に適用な海洋利用
    ex)船舶及び航空機の運航、海底電線・パイプラインの運用に係わる海洋の利用

排他的経済水域は大陸棚制度と異なり、沿岸国が(国内の)立法措置などでそれを設定してはじめて存在する。また、公海自由の原則に関わる全ての規定・事項は、これら排他的経済水域の規定に反しない限り適用される。

公海の自由

 公海とは全ての国の領海、排他的経済水域、内水、群島水域にも含まれない海のことをいう。公海にはどの国の主権も及ばず、また、どの国も他国からの干渉を受けることなく、自由に使用することができる。代表的な例としては、航行・上空飛行・漁獲・海底電線および海底パイプライン敷設の自由などがある。しかし、公海を使用する際には、他国の利益に適当な配慮をしなければならない。

旗国主義

 船舶は、どこかの国の国籍を持っていなければならず、公海ではその国の排他的管轄権に服さなければならない。旗国はその船に対して行政上・技術上・社会上の有効な規制を行わなければならない。しかし、実際にはリベリアやパナマといったある国々が、有効な規制を行わない(旗国主義を守らない)便宜置籍船の問題が起こっている。便宜置籍船とは、主に先進諸国が開発途上の国々において、税金が安い・船の設備や装備面での基準が甘い等の理由から、便宜的に登録する船のことである。

この旗国主義の考え方を元に、領海条約や海洋法条約では、旗国には管轄権があるため、沿岸国は自国の法益に大きな侵害がない限り、刑事・民事の裁判権を行使することができないとされている。(例外→トリー・キャニオン号事件)

海賊行為

 海賊行為は、古くから「人類共通の敵」とみなされ、すべての国家がその抑止に協力するものとされている。よって、いずれの国家も、海賊船舶・航空機を捕まえ、人・財産を逮捕・押収し、自国の裁判所で処罰できる。これは普遍主義と呼ばれ、旗国主義の例外である。海賊行為の定義は、

  1. 私有の船舶・航空機の乗組員または旅客が
  2. 私的目的のために
  3. 公海またはいずれの国の管轄権にも服さない場所で
  4. 他の船舶・航空機に対して行う、不法な暴力行為、抑留または略奪行為

である。ただし、同一船舶内・航空機内での暴力行為(シージャック・ハイジャック)は海賊行為に含まない。

継続追跡権

継続追跡権とは、沿岸国の法益保護の観点から認められた、沿岸国が自国の法令に違反した外国船舶を公海上まで追跡し拿捕する権利である。しかし、この権利は公海自由の原則の例外として認められているものであり、その行使については厳格な要件が定められている。

「開始」「継続」「終了」の要件

次の場合において、追跡が「開始」「継続」「終了」される。尚、追跡は、沿岸国の軍艦、軍用航空機又は政府公の船舶、航空機によって行われる。

追跡を開始するための要件として、

  1. 被追跡船が自国法令に違反したとする十分な理由があること。
  2. 被追跡船に対し、視聴覚方式の停止信号を発しても止まろうとしない場合。
  3. 被追跡船が沿岸国の内水、群島水域、領海、接続水域、排他的経済水域にいる時点から追跡を開始すること。

追跡を継続するための要件として、

  1. 追跡は中断することなく継続して行われなければならないが、やむをえない場合(船が遅い・拿捕能力がない・船の故障など)にはリレー方式(追跡船のバトンタッチ)を使用できる。

追跡を終了せねばならない場合として、

  1. 継続的な追跡が中断された場合。
  2. 被追跡船を見失った場合。
  3. 被追跡船が、その旗国又は第三国の領海に入った場合。(被追跡船が再び公海上に現れても追跡権は認められない)

大陸棚

大陸棚条約(1958)第1条は、大陸棚を「領海の外の水深200mまでの海底、又は水深200m以上でも開発可能なところまで」と定め、大陸棚では沿岸国が探査や天然資源開発に主権的権利を有するとされた。しかし、それ以降の技術の発達により、上記の「開発可能なところ」の文言に限界が無くなってしまうおそれが出た。そこで、海洋法条約では76条において、以下のように大陸棚の決め方を明示した。

  1. 大陸棚が200海里まで続いていなくても、200海里までは大陸棚と認められる。
  2. 大陸棚が200海里以上続いている場合。

しかし、大陸棚の決め方ははっきりしたものの、隣接国や、海を挟んで向かい合う国同士の間では、大陸棚の範囲をめぐり、対立が起こることがある。

大陸棚条約第6条1項では、「大陸棚の境界画定は、合意により決定され、合意のない場合は等距離中間線原則に基づき決定される」とされた。しかし、その後「北海大陸棚事件に対する国際司法裁判所の判決では、「衡平原則に基づき、他国を考慮して合意によって決定されるべきだ」という考えが示された。そのため、現在、海洋法条約82条には、大陸棚の境界は「衡平な解決が合意によってなされるべき」という主旨が記されている。

海の境界画定

海岸が向かい合っているか隣接している国どうしの間での領海・接続水域・大陸棚・排他的経済水域での境界画定の方法は以下の通りである。

領海・接続水域において

別段合意がない場合は2国間の基線上の最も近い点から等距離にある中間線を越えて領海を拡張することはできない。例外として、歴史的権原など特別な事情がある場合はこの原則はあてはまらない。

大陸棚・排他的経済水域において

沿岸諸国同士がお互いの合意により行う。合意に至らなかった場合は必要な権限を与えられた第三者機関を用いて、衡平な結果にみちびくのに関係するあらゆる事情(海洋資源など)を考慮し決定される。

国際海峡

国際海峡とは、国際航行に使用される海峡のことである。国際海峡においては、通過通行権が認められる。領海が12海里に成る以前は、国際海峡の中央に公海の部分を残していたため、国際海峡の通航には問題はなかった。しかし、領海が12海里になってしまったために新たな制度が必要となり、通過通航権ができたのである。

通過通航権とは、国際海峡において継続的かつ迅速な通過の為のみ、航行及び上空飛行の自由を行使出来る権利のことである。ただし、沿岸国は必要に応じて通過通航権を行使できる通航路を国際海峡内に指定することが出来る。

また、一部には無害通航権が認められている国際海峡もある。通過通航権と無害通航権の違いは

であり、いずれも継続的かつ迅速な通過のみ認められてる。

通過通航権が適用される国際海峡

一方の公海・排他的経済水域と他方の公海・排他的経済水域とを結ぶ海峡。
ex.ドーバー海峡(イギリスとフランスの間)

無害通航権が適用される海峡

  通過通行通航権は認められていないが無害通航権は認められている海峡がある。

  1. 沿岸国の本土と島によって形成されている海峡
    ex.メッシナ海峡(イタリア本土とシチリア島の間)
  2. 公海・排他的経済水域と他国の領海の間の海峡
    ex.サウジアラビア、ヨルダン、イスラエル、エジプトに挟まれた海峡

群島水域

群島水域とは、群島国家の最も外側の島の外側どうしを結んだ直線(群島基線)の内側の水域のことを言う。

群島国家
大洋にある一連の島からなる国のこと。
群島基線
この線の内側が群島水域、外側が領海となる。

群島水域の通航制度としては、

  1. 群島国家は群島航路帯(群島航路帯通航権が適用される群島国家によって定められた地帯のこと)を設定でき、外国の船舶や航空機は群島航路帯通航権(船舶の航行、航空機の上空飛行、潜水艦の潜水航行(いずれも継続的かつ迅速な通過のみ認められる))を有する。
  2. 外国の船舶は無害通航権を有する。

深海底

 1982年に採択された国連海洋法条約は、深海底における国際的制度を設けることを規定している。その中で、深海底における資源は『国際海底機構』によって管理され、深海底の開発には以下の形態がある。

  1. 国際海底機構に直属する開発事業体である『エンタープライズ』が行う
  2. 国際海底機構の認可を得た国家や私企業が行う [1]
  3. エンタープライズと(国際海底機構の認可を得た)国家や私企業が合同して行う。

海洋汚染の防止

海洋汚染の防止に関する経緯

 1967年のトリー・キャニオン号事件を契機に、海洋汚染が国際的な問題として取り上げられるようになった。そして、公海における旗国主義の原則を見直し(旗国主義に基づく措置では、地球環境や沿岸国利益の保護の観点から汚染に対する有効な規制が行えないおそれがあるため)、海洋汚染に対する規制を設けようとする動きが高まり、さまざまな条約を経て、それらは「国連海洋法条約」により、集大成された。

国連海洋法条約による規制

 国連海洋法条約は、まず海洋環境を保護する一般的義務を定め、海洋汚染防止のために、旗国の義務を強化する一方で、入港国にも一定の条件で管轄権行使の権限を認めたものである。なお、国家は海洋環境保護に関して国際的義務を果たす責任を持ち、かつ自国の管轄下にある私人による海洋汚染から生じる損害について、補償その他救済手段を確保する義務を負うとしている。

参考文献



[1] 国家や私企業が開発をする際には、開発する海底を自分達が開発する部分と、国際海底機構が開発する部分との2分して申請しなければならず、これをバンキング方式という。また、エンタープライズのみならず、国家や私企業も深海底開発に参加できる形態を『パラレル方式』という。

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ver.1.00/2004.01.25 opened to the public.


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