台湾〜国際法的地位と政治的模索

はじめに

2001年2月現在、台湾承認国はわずか29カ国。国際法上の国家の要件を満たし、経済的・政治的にも高度なレベルを誇る台湾が、なぜ国際法主体として多くの国々から承認されていないのか?

今回の学習会ではそういった台湾の歴史的背景や国際的立場をふまえつつ、先の疑問に迫っていく。

「台湾」の歴史的背景

 1945年日本の敗戦により、台湾は中国本土に返還され [1] 、台湾住民はすべて中華民国の国民となり、この時中国大陸から台湾統治にやってきた中国人が増加したわけだが、大陸から来た人たちは自らを優越視するために台湾在住の住民を「本省人」、中国本土から新たに台湾に移住した人たちは「外省人」として区別した [2]

 外省人が台湾に流入することにより、短期間で台湾経済は疲弊していった。中国本土から派遣される官吏の質の低さ、効率の悪さがその原因である。このことは本省人と外省人との対立を深める原因となった。

 そして、1947年に「2・28」事件 [3] が起こり、その後、戒厳令がしかれ、本省人に対する外省人支配が続くことになった。本省人の意識の中に、「外省人からの独立」志向を強めた点で、この事件は非常に重要である。

 同じ年、中国本土では蒋介石率いる中国国民党と毛沢東率いる中国共産党が、主導権を争い内戦に突入するが、形勢不利に追い込まれた国民党一派は、1949年、台湾に逃れ、台湾に中華民国政府を樹立した。両党は、1991年まで互いに「我こそは中国の政党政権である」と主張し対立していたが、台湾側の憲法改正により、台湾が中国とは別個な国家としての道を歩み出した。

 当初、台湾に逃れてきた蒋介石率いる国民党政権は、物質不足とインフレにより弱体化していた。実はこの時期、中華人民共和国には統一を果たすチャンスがあったのである。だが、中国をソ連の属国と見なしていたアメリカは、極東の共産化を防ぐために台湾支援を行った。アメリカの支援により、蒋介石は台湾を一党独裁体制に固めることができ、自らの地位も固めることが出来た。

50年代、60年代と台湾に手を出せなかった中共であるが、60年代後半からソ連との関係が国境問題から悪化し、そこに目をつけたアメリカと国交を結ぶことになる。このアメリカの行動の目的は、当然、ソ連の弱体化であった。

 アメリカは、中共を「中国唯一の合法政府」と認め、今まで台湾と結んでいた主要な条約を破棄した。さらに、台湾に代わって、中共が国連に加盟することになり、台湾と国交を結んでいた国も中共と国交を結ぶようになった。このことにより、台湾は国際的に孤立していった。ここで再び、中共に中国統一のチャンスが訪れていたといえる。しかし、アメリカが「台湾関係法 [4] 」という国内法を作り、台湾との関係維持を明示したため、またも中共は台湾に手を出せなくなったのである。

 その一方で、台湾では民主化が着々と進むことになる。

「台湾」は国家であるのか?

国際法における国家の要件は以下の3つ、

  1. 人民がいること
  2. 領域があること
  3. 独立した政府が存在すること(外交能力があること)

である。この3つの要件に当てはめてみる。

人民がいること

 人民とは領域国の国籍を持ち、その土地に恒常的に住み安定した共同社会を形成している人々であって、そのような人々を「国民」という。ここでいう安定とは、一定の権力を現実に確立し、人々がそれに服していることを指す。

 では、台湾の場合はどうかというと、確かに住民は存在している。だが、今日の国際社会は、人民のために政府があるとし、この要素が国家の3要件のうち不可欠なものになっているというのは見逃せないことである。もし、台湾住民が中国に吸収・統一されたいと願っているのなら、国家3要素のうち人民の要素が欠けているということになるだろう。

 現在、台湾人の国民意識は、本省人優位へと変化していることはまぎれもない事実である。台湾人口のほとんどが本省人であり、外省人はわずかでしかない。しかし、本省人優位の中でも外省人との対立を無くし、新台湾人への道を模索しなければ、台湾国民の意識が統一されることはないと考えられる。現総統の陳水扁は本省人・外省人の垣根を越えて選ばれたリーダーであり、台湾のこれからを作っていく人である。

 台湾国民の意識統一への道はまだはじまったばかりである。

領域があること

 台湾政府が実効的に支配している地理的範囲は、台湾本島及びこれに属する島々と膨湖諸島を含む79の島である。中共は、台湾を自分たちの土地だと主張するが、中共が台湾地域を統治したことは、1949年に中共が成立して以来、一度もない。

 また、台湾は1991年に憲法第10条(現11条)に追加修正を加え、憲法が及ぶ統治範囲を、台湾が所轄している領土に限定した。このことは、中共の大陸統治を合法なものとし、自らを中共とは別個な存在として位置付けたことを意味する。

独立した政府が存在すること

 1992年の憲法修正で憲法第2条に追加条文を加え、総統及び副総統は台湾住民の直接選挙によるものとし、それにより組織された国家機関は、台湾住民のみを代表し、国家権力の正当性もまた、台湾住民の意思に基づくものであるとした。直接選挙を住民の手により行うということは、裏を返せば、政府の実効的支配が台湾全土に広がっていることを意味する。また、繰り返しになるが、台湾地域は1949年に中共が成立してからも、中共政府に支配を受けたことはない。これは、外部の勢力に屈することなく、台湾政府が国内を実効的に支配してきたことの証拠である。

 以上のことから、「台湾」は国際法上の国家の要件は満たしているといえる。だが・・・

何故「台湾」は国家として認められないのか?

ここからは、台湾の国際法上の立場と諸国の承認を目的とした外交政策について触れていく。

国宝承認

承認の性質をめぐる学説は二つに分かれる。

創設的効果説
国家は承認を受けることによってのみ国際法の主体なりうる。
宣言的効果説
新国家は国家の資格要件を充たすと同時に国際法の主体となりうる。承認はこの事実を確認し、両国間の権利義務関係の存在を確認するのみ。

創設的効果説によれば、承認するかどうかは各国の自由。それゆえに、政治的動機による承認拒否をされる場合もある。宣言的効果説によれば、政治的動機による承認拒否のおそれはなくなるが、承認後の外交関係が開設されない場合もある。

 承認に伴い、外交関係が開設されることが多いが、これは承認の当然の効果ではない。日本を含む諸外国のほとんどが、宣言的効果説の立場をとっている。特に、第二次大戦後、あいついで独立を達成した諸国は、主に宣言的国家説をとる傾向にある。台湾の承認国も、そういった国々が、大半を占めている。

 台湾の明示的な承認の大きな妨げとなっているのが、諸国家の中国に対する政治的配慮である。中国が台湾統一を掲げる限り、多くの国々にとって台湾を承認するということは、中国という大国を敵に回すことになるのだ。

未承認国衆の当事者能力

 では、そのような承認していない国では台湾はどのように扱われるのか?

まず、国際請求はできるのかというと、国家は承認がないことを理由に、国際法上は無の存在であっても(創設的効果説)、事実上もまた、無の存在であるとは言えない。つまり、慣習国際法は、一定の管轄権の行使を暗黙のうちに認めている。従って、未承認国の領海や領空への進入が、他国により、許可なくして行われた場合、国際法上の違法行為となり、未承認国はこれに対して責任を追及することができる。

また、台湾人の法的地位はというと、日本の法務省の解釈によると、日本においては、 一般的に、国際私法において、外交の承認の有無は特別の意味を持つものではないが、国籍主義が取られている場合に限り、国際法上我が国の承認している政府(中国)の国籍のみが考慮されるべきだとの見解である [5]

 このように台湾の当事者能力に関する法的地位は、「国家」を主張する側にとって決して満足とはいえない。

「台湾」の選択

 では、台湾にはどのような道が残っているのだろうか。台湾問題解決のための選択肢としては

以上の2点が挙げられる。台湾はあくまでも独立国家を目指している。独立達成に向けての策として強制的解決と平和的解決がある。

強制的解決

 つまり、武力による解決である。今日、国家間の紛争で武力行使による強制的解決が許されるのは、自衛か国連の強制行動の場合に限られる。もし、台湾と中国が特殊な「国と国との関係」 [6] とすると、国際法に背くことになり、先に武力を行使した方が、侵略国として国連による軍事的制裁の対象となる。しかし、台湾を「事実上の地方政府」と解釈した場合、一国家内の内戦として、武力による終結を禁ずる国際法規は現時点では存在していない。つまり、武力による解決は可能ということになる。

 しかし、現実問題として、台湾の軍事的能力は中国のそれには到底及ばない。中国にしてみても、統一する際のメリットである台湾の経済力を、武力行使により、失いたくないとする立場から、両者とも、実際行動には出ないと思われる。

平和的解決

 具体的なものとして、さらに直接交渉、司法的解決が挙げられる。

直接交渉

紛争の基本的な解決方法である。中国はこの方法を支持しており台湾に対話をよびかけているのだが、台湾が自らを一国家だと主張しているのに対し、中国はあくまでも事実上の地方政府だとしているため、両者の話し合いは平行線を辿るであろう。

司法的解決

取り扱う問題が、あまりにも高度に政治的且つ主権的な問題のため、両者が国際裁判所に付託するとは考えにくい。また、ICJへの付託についても、台湾がICJ規定の当事者となっていないため、安保理が定める条件に従って裁判所を利用できることになっている条項を使う可能性が考えられるが、安保理では拒否権の対象となる問題として扱われるため、中国の拒否権発動は当然予想される。

 以上の点から見ても、台湾にとって、中国との武力・交渉・裁判による問題解決は難しい。

国際社会のメンバーを目指して

そこで、台湾が生き残る最後の手段としてとった行動が、国際社会に働きかけにより、国家として認知されることだ。そのための外交関係(ここでは、公式の外交関係ではなく非公式、あるいは準公式的な外交を指す)において、台湾はグローバルに対外関係を展開している。この政策は、一般に実務外交と呼ばれている。具体的には、国際社会の原理である民主主義の実現・経済及ぴ技術協力の推進・国際機関への加盟がある。

民主主義の実現

 一見対外政策とは結びつかないように思えるが、人類の普遍的価値とされる民主主義を認め、国際法を遵守する意志と能力を持つ平和愛好国であることが、国際社会のメンバーの要件である(ケルゼンの純粋法学に基づく国際法優位論)とされており、国連加盟も検討している台湾にとって、国内政治の民主化は必須の条件であろう。台湾は、選挙という先進民主主義国が持つ平和的な手続きにより、民主化を行ってきた。2000年3月に行われた総統直接選挙は、国際法上の国家となるための国内的要件を、台湾が達成したことの証として捉えられた。

経済及ぴ技術協カの推進

 国交はなくても、台湾に比較的友好的な国に対しては、経済及び技術協力協定の締結により、それらの国に援助を提供している。援助内容としては、技術支援団体の派遣・借款提供・企業の海外投資の奨励などがある。また、国際間に対し災害救助もおこなっている。

国際機関への加盟

 中国による反発を軽減させ、いっそう多くの国際的支持を得るために、国際機関の加盟にかなりの力を入れている。国連再加盟の努力はしているが、決して、この活動を最優先事項としない。現段階での最優先事項は、機能的な国際機関参加を勝ち取ることである。例えば、世界貿易機関・世界保健機関・国際通貨基金・世界銀行等への参加などである。

 このような精力的な実務外交により、多くの国交のない国々との実質関係は、大きな進展を見せている。米・英・仏等の西側先進諸国は相次いで、経済貿易部門を主とする閣僚クラス官員の台湾訪問を認可している。また、国交はなくても、民間航空協定・投資保護協定・二重課税回避協定を調印している国々が増えている。国際機関に関しては、「中華・台北」の名義ではあるがAPECの仲間入りを果たした。APEC加入後は、WTOのメンバー入りを目指して、既に加入している国々との接触を行っている。WTOへの加盟が実現すれぱ、国連加盟への足がかりとなるであろう。財政難に苦しむ国連にとって、台湾の加入は支えとなる。また、それ以上に、国民の意思に基づいた高いレベルの民主国家が、周囲に与える影響は計り知れないのである。

※台湾は既に、WTOへの加盟を果たしている。
  2001年 9月: 加盟作業部会で加盟関係文書採択。
       11月: 11日、台湾加盟承認(カタールWTO閣僚会合)。
          16日、加盟議定書が立法院で受諾。
       12月: 2日、台湾が受諾文書をWTO事務局に寄託。
  2002年 1月: 1日、WTO加盟発効。

参考文献



[1] 1895年、日本は中国(清)との戦争に勝利し、日清条約で台湾及び膨湖諸島を手に入れ、以後50年間、台湾は日本が直接統治する植民地となっていった。現在の台湾で60歳以上の年配の方が、日本語を話せるのは当時の日本語教育によるものである。

[2] 現在、台湾人口全体に占める本省人の割合は85%、外省人は13%である。

[3] 1947年2月、闇煙草の密売摘発を行っていた外省人官吏が、本省人が多数を占める一般市民に暴行をくわえたことに端を発し、翌2月28日には群集と憲兵隊が衝突する騒ぎとなり、暴動が台湾全土に拡大した。この事件では台湾知識人、いわゆる各界の指導者が殆ど殺され、死者は3万人近くにのぼった。この事件は外省人の横暴に対する本省人の不満が一気に表面化した事件である。

[4] 正式名称は「西太平洋における平和・安全及ぴ安定を維持するのを助長するためのかつ合衆国人民と台湾人民との間の通商・文化・その他の諸関係の継続を認めることにより合衆国の対外政策を推進するための法律」。1996年の総統選挙の際、中国が台湾海峡において、軍事演習を行い圧力をかけたが、アメリカはこの法律に基づき空母2隻を台湾に送り、中国を牽制した。

[5] 類似のケースとして、在日朝鮮人のケースがある。日本の役所では、韓国籍の人にも北朝鮮籍の人にも一律に韓国法を本国法として実務が執り行われている。

[6] 李登輝総統('88.1〜'00.5)が独の放送局との対談の際使った言葉。

history of update
ver.1.11 2004.09.12 台湾がWTOへ加盟済みであることを追記。
ver.1.10 2004.01.22 opened to the public.
ver.1.00 2001.03.?? published for ILS by my friends of ILS


今日: 昨日:
since 2008.09.13