国家責任条文草案逐条解説第2部3章序

第3章 一般国際法の強行規範における義務の重大な違反

(1) 第2部第3章は「一般国際法の強行規範における義務の重大な違反」と題される。国際法違反の特別な類型のある効果を規定する。義務違反は、二つの基準の規定により確認され、第一が一般国際法の強行規範における義務違反を行われ、第二に、関係する義務違反が重大(義務違反の規模もしくは性格に関して)であることである。第3章は2つの条文を含み、第一にはその適用範囲を規定し(第40条)、第二にはこの章の範囲から生じる違反により伴う法的効果を詳細に規定する(第41条)。

(2) 性質的な区別が国際法の異なる違反として認識されるべきかどうかは、重要な議論のお題目である (注661)。その問題は、バルセルナ・トラクション事件において、国際司法裁判所によって強調され、裁判所は次のように述べている。

「本質的な区別は、国際社会全体に対する国家の義務と、外交的保護の分野で他国と相互的に生じる義務との間に描かれる。それらの性質により、前者はすべての国家に関する事項である。援用される権利の重大さを考慮して、すべての国家が、それらの保護に法的利益を有し、それらが対世的(エルガオムネス)義務である。(注662)」

裁判所は、外交的保護の文脈における被害国の地位を、国際社会全体に対する義務違反に関係するすべての国家の地位と、対比させようと努めた。そのような義務が、当事件において利害関係のある事項ではなかったのだが、裁判所の判決は、国家責任の目的のため、ある義務が国際社会全体に対して負う義務で、且つ、「援用される権利の重大さ」により、すべての国家が、それらの保護に法的利益を持つことを、明確に示した。

(3) 多くの後の判決において、裁判所は、その機会に、国際社会全体に対する義務の概念を確認する行動をとっている、それを適用するのには慎重なのだが。東ティモール事件において、裁判所は、「民族自決権に対する人々の権利(国連憲章及び国連の実行から導き出されるものとして)が対世的(エルガオムネス)性質を持つ、とのポルトガルの主張には非難の余地がない(注663)」ことを述べた。ジェノサイド罪の防止及び処罰に関する条約の適用事件の先決的抗弁において、裁判所は、「ジェノサイド条約により規定される権利と義務が、対世的(エルガオムネス)権利及び義務である(注664)」ことを述べ、その請求に対する時間的管轄権は当事国が条約に拘束された以降には制限されないという帰結を、この判決は与えた。

(4) 密接に関係した発展は、条約法に関するウィーン条約第53条及び64条の国際法の強行規範の概念の承認である(注665)。それらの規定は、基本的性格の独立した規範(強行規範からの失墜は、条約においてさえ認められない)の存在を規定した (注666)。

(5)当初から、それらの発展が、国家責任の条文に反映される必要があるだろう国家責任の二次的規則に密接な関係のあることが認識されていた。当初、これは「国家の国際犯罪」の分類(国際違法行為”internationally wrongful acts”(「国際違法行為“international delicts”」)のすべての他の事例と対比されるものとして)に規定されると考えられた(注667)。しかし、それらの基本的的規範の違反国家に対する刑罰的効果の発展はなかった。例えば、懲罰的損害の裁定額は、国際法において、強行規範から生ずる義務の重大な違反においてでさえ、規定されない。第34条に従い、損害の相関関係にあるものは本質的に賠償である(注668)。全般的に、国際軍事裁判が1946年に次のように述べた事例に帰する。

「国際法に対する犯罪は、人により遂行されるのであり、概念的構成体により遂行されるのではない、且つ、そのような犯罪を遂行した個人を処罰することによってのみ、国際法の規定が守られるのである。(注669)」

(6) このアプローチに従い、公的立場で遂行された犯罪行為に対する政府公人のニュルンベルク及び東京裁判所による裁判や有罪判決にもかかわらず、ドイツでも日本でも、それらの裁判所を創設する手段により、「刑事上の犯罪」として扱われることはなかった(注670)。より最近の国際的実行として、似たようなアプローチが、国連安全保障理事会によるユーゴスラビアとルワンダのアドホックな裁判所の設立の根底にある。どちらの裁判所も、個人の訴追にのみ関係する(注671)。ブラスキー事件(?: a subpoena duces tecum in Prosecutor v Blaskić)の判決の中で、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所の上告審は、「現代国際法上の規定により、国家が、国内刑事体制の規定に類似する刑事制裁の対象でありえないことは明らかである(注672)」と述べている。1998年7月17日の国際刑事裁判所のローマ規定も同様に、「国際社会全体に関する最も重大な犯罪」に管轄権を設定しているが、この管轄権を「自然人」に限定している(第25条第1項)。同条は、「個人の刑事責任に関する(ローマ規程の規定)が、国際法上の国家の責任に影響しない」ことを特に述べている(注673)。

(7) それゆえ、本条文は、第1部の目的のため、国家「犯罪」と「違法行為”delicts”」の区別の存在を規定しない。一方、一般国際法上の強行規範の基本概念、及び、国家責任の分野における国際社会全体に対する義務、から生じるある種の効果の存在に影響するため、本条文が必要不可欠である。一般国際法の強行規範及び国際社会全体に対する義務が単一の基本概念の側面があるかないか、いずれにせよそれらの間に部分的重複が存在する。例えば、国際裁判所が国際社会全体に対する義務を与える事例(注674)は、(それは一般的に受け入れられていることだが、)一般国際法の強行規範から生じる義務に、全て関係する。同様に、ウィーン条約第53条(注675)になった条文のコメンタリーの中で、委員会により与えられた強行規範の事例は、国際社会全体に対する義務を援用する。しかし、いずれにせよ、強調された中に違いが存在する。一般国際法の強行規範が、範囲と優先度における、基本的義務のある種の大きさに対して、焦点を当てているが、国際社会全体に対する義務の焦点は、遵守することの中に全ての国家が本質的法的利益を有することである。例えば、本条文に関して、違反国の国家責任を追及する資格を与えられる中に。それらの焦点の違いに従い、二つの区別の仕方で、二つの概念の効果に影響を与えることは適切である。第一に、一般国際法の強行規範から生じる義務の重大な違反は、追加的効果(責任ある国家に対してだけでなく、すべての他国に対しての)を導くことができる。第二に、すべての国家は、国際社会全体に対する義務の違反に対する責任を追及する資格が与えられる。第一の事項は、本章に関する事項であり、第二の事項は、第48条で取り扱われる。

Footnote

661 完全な関係書目は、M. Spinedi「国家の犯罪:関係書目」、J. Weiler, A. Cassese & M. Spinedi (eds.)「国家の国際犯罪」(Berlin/New York, De Gruyter, 1989) 339-353頁、N. Jørgensen『国際犯罪の国家責任』(Oxford, Oxford University Press, 2000) 299-314頁。

662 「バルセロナトラクション(電力株式会社)事件(第二段階)」『I.C.J.レポート1970』32頁33段落。M. Ragazzi『対世的国際義務の概念』(Oxford, Clarendon Press, 1997)を見よ。

663 「東ティモール事件(ポルトガル対オーストラリア)」『I.C.J.レポート1985』102頁29段落。

664 「ジェノサイド罪の防止と処罰に関する条約の適用事件(先決的抗弁)」『I.C.J.レポート1996』616頁31段落。

665 「条約法に関するウィーン条約」国連『条約シリーズ』1155巻331頁。

666 第26条及びコメンタリーを見よ。

667 『年鑑1976』第2巻第2部95-122頁、特に6-34段落。第12条のコメンタリー5段落も見よ。

668 第36条のコメンタリー4段落を見よ。

669 主要戦犯の審理のための国際軍事裁判所、1946年10月1日判決、『A.J.I.L』第41巻(1947)221頁に再掲。

670 1945年のロンドン憲章が、「刑事上の犯罪」として「集団及び組織」の非難の根拠として特に規定されたという事実にも関わらず。「ロンドン国際軍事裁判所憲章」第9条、10条、国連『条約シリーズ』第82巻279頁。

671 1991年以降旧ユーゴスラビア領域内で行われた国際人道法の重大な侵害に対する個人責任の訴追のための国際裁判所規程第1条、6条、1993年5月25日(本来、S/24704及び追加1に対する付属書として公表され、決議827(1993)により安保理により承認された;1998年5月13日の決議1166(1998)及び2000年11月30日の決議1329(2000)で修正された);及び、ルワンダ領域内で行われた国際人道法の重大な侵害に対する個人責任及び隣国領域内で行われたそのような侵害のルワンダ市民の責任の訴追のための国際裁判所規程第1条、7条、1994年11月8日、決議955(1994)により安保理により承認された。

672 ブラスキー事件(Case IT-95-14-AR 108 bis, Prosecutor v. Blaskić)『I.L.R.』第110巻(1997)698頁25段落。「ジェノサイド罪の防止と処罰に関する条約の適用事件(先決的抗弁)」『I.C.J.レポート1996』どちらの当事国も、手続きを刑事的性格のものとして扱わなかった。第12条のコメンタリー6段落も見よ。

673 国際刑事裁判所ローマ規程第25条4項、1998年7月17日、A/CONF.183/9。第10条も見よ:「この部の規定は、この規程以外の目的のため、国際法の規則の存在又は発展に、制限又は影響を与えるものとして解釈されない。」

674 国際司法裁判所によると、対世的義務は、「現代国際法において、例えば、侵略及びジェノサイド行為の禁止、基本的人権に関する原則及び規則(奴隷及び人種差別からの保護を含む)を想定する。」:「バルセロナトラクション(電力株式会社)事件(第二段階)」『I.C.J.レポート1970』32頁34段落。「東ティモール事件(ポルトガル対オーストラリア)」『I.C.J.レポート1995』102頁29段落;「核兵器の威嚇又は使用の合法性」『I.C.J.レポート1996』258頁83段落;「ジェノサイド罪の防止及び処罰に関する条約の適用事件(先決的抗弁)」『I.C.J.レポート1996』615-616頁31-32段落も見よ。

675 国際法委員会は、一般国際法の強行規範又はユスコーゲンスの規則に違反し、条文を侵害するであろう条約の例を次のように示した:「(a)憲章の原則に違反する武力の違法な使用を意図する条約、(b)国際法上、他の犯罪行為の実行を意図する条約、及び(c)全ての国家が、防止の協力を求められる行為(奴隷貿易、海賊行為又はジェノサイドのような)の遂行を意図又は黙認する条約...人権、国家の平等又は民族自決権の原則を侵害する条約は、他の可能な例として言及される。」:『年鑑1966』第2巻248頁。


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