アジア共通通貨の可能性

各国による通貨バスケット制の否定

 東アジアの国にとって自国通貨の為替相場制度がバスケット制度によってより安定するかどうかは、その国の対外関係の安定に必ずしも直接関係しないのではないかという疑問がある。それは東アジアの国々においては自国通貨が貿易や投資といった取引に使われているわけではないからである。

共通通貨単位の提案

 しかし、東南アジアの各国間で自国通貨建て取引が現にかなり存在し、また今後これを拡大していこうというのであれば、ペッグするバスケットは各国ばらばらでなく共通バスケットとすべきであり、共通バスケット連動にすれば、資本移動に対するショック適応力もそれだけ大きくなるのであろう。

近藤健彦の提案

 彼の提案は「APEC共通通貨単位」の創設である。コンセプトは次の通り。

  1. ドル、円、人民元、韓国ウォン、タイバーツなどのAPEC参加主要国の通貨カクテルとする。
  2. どの通貨をどの比率で組み入れるかはAPEC大蔵大臣会議が決定する。
  3. APEC事務局は毎日、APEC共通通貨単位の対米ドル、対円などのレートを計算して発表する。
  4. 当面、価値表示の単位としてのみ使用する。いうなれば純枠計算単位であり、当座は資産としての実体を持たせない。
  5. APEC域内の貿易・投資の表示単位として使用する。ただし通貨当局は、APEC共通通貨単位の使用を強制しない。民間の当事者が貿易や投資の表示単位として使うかどうかは「契約の自由」にまかせる。

というものである。

アジアのドル使用率の現状、人民元の潜在力、及び円の強さを考慮し、これらの通貨はバスケットの中に加えられるべきであり、個々に列挙されたものだけに限らなくても良いとする(これはバスケットに加えられた国が将来の共通通貨圏の一員でなければならないというわけではない)。また、あくまでも価値基準(ニュメレール)としての通貨単位であるということが特徴である。

 現実として通貨統合を行うことには、榊原英資氏も「性急だ」と否定的な見解を示している。

共通通貨のメリットと限界

 メリットとしては、

  1. 域内の為替リスク・為替コストがなくなる。域内の貿易・企業進出が拡大する。
  2. 経済計算単位が一本化されるため、価格形成が透明になり、消費者に資する。
  3. 域内の資本市場が発達する。従って国内開発資金を市場から調達しやすくなる。
  4. 域内他国が安定した政策を取っていると、国内コンセンサスを得やすくなる。
  5. 通貨圏が広がるだけ対外ショックに対して強くなる。
  6. 以上から、「金融政策の独立」「為替レートの安定」「資本移動の自由」を地域全体として解決する。

 デメリットとしては、メリットCに対して、各国が景気対策として、一国単位での金融政策や為替政策を使えなくなる。

共通通貨単位のメリットと限界

共通通貨単位のメリットは

  1. 為替リスクの分散・軽減させることである(安定した資産運用に似ている)。
  2. 為替レートは特別な安定をもたらす。
  3. 各国の金融政策の独立性が保たれる(経済的に本当にメリットかは議論あり)。
  4. 共通通貨への大きなステップとなる。

デメリットは、バスケット構成通貨に対し、通貨投機はなくならない点である。

共通通貨(単位)成立の条件

 共通通貨が成立するためには、客観的にその必要性があること、主観的にそのための政治的意思が形成されることが必要となる。客観的必要性については、アジア通貨危機を経験し、高い経済成長を維持するためには何よりも通貨の安定が必要であることを認識した。主観的な政治形成意思については、形成されているとはいえないが、通貨安定の一手段として検討すべきことを主張している首脳もいる。

共通通貨(単位)形成の各国の利益

東南アジア

  1. 脱ドルを通じ、急激な資本流出入の弊害へのグループとしての抵抗力強化。
  2. 中長期的には、東南アジアにとって、技術移転、直接投資により、技術ネットワークの形成を促進する。

中国

  1. 長期経済計画の目標を達成し、さらなる発展させるためには、巨額の外貨導入が必要とされ、その外貨として利用できる。
  2. 新しい通貨ということが、中国の威信を傷つけることがない。

米国

  1. 貯蓄不足国であるアメリカが、アジアを通貨的に中立にして、アジア(特に日本)の貯蓄を競争的に有効活用する土俵となりうる。

日本

  1. 中長期的に見て、人民元が力をつけてくると、米ドルと人民元に挟まれ、アジアの分断を招き、日本が経済的に立ち遅れる可能性があり、共通通貨(単位)それを回避できる。
  2. 政治的に、アジア地域の相互依存関係が進展して、アジア地域の安全保障にも寄与できる。

共通通貨への道のり(アジアモデル)

近藤健彦の提案はこの道のりの中で、第1段階に当たる。

参考文献

 

history of update
ver.1.10 2004.01.11 added table of contents.
ver.1.00 2003.11.27 opened to the public.


今日: 昨日:
since 2008.09.13