EU経済(通貨)統合への過程

 今日、EU(欧州連合)は、経済統合の最終形とも言える通貨統合を実現させ、EMU(経済通貨同盟)の創設に成功した。では実際にどのような過程でEMU創設に至ったのか、その歴史を振り返る。

歴史 

EC創設

欧州における経済統合への動きは、1923年の「パン・ヨーロッパ運動」にまで遡る。そして、その動きが本格的に始動するのは、第二次世界大戦後以降で、欧州の分裂が、そのまま、欧州の弱体化につながるという危機感が原動力であった。

1950年代から、ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)、EEC(欧州経済共同体)、EAEC(欧州原子力共同体)が相次いで設立され、1967年3機構が統合され、EC(欧州共同体)が設立された。ECでは関税同盟が成立し、EC域内の貿易において、関税・輸入数量制限の撤廃、EC域外に諸国に対する共通関税設定のほか、共通農業政策の実施により、EC域内の農産物価格の統一等が行われた。

しかし、1960年代のドル危機や、1971年のブレトンウッズ体制崩壊により、EC域内市場は混乱し、ECの経済停滞を招いた。そこで、1970年代から、ECでは、ドルに影響されない独自の安定通貨圏の創設を目指すようになったのである。

EMU創設に向けて

ブレトンウッズ体制 [1] 下の1970年代初めから、EMU(経済通貨同盟)創設に向けた提案がなされ、それに基づいた経済体制が取られた。ECでは、各国が協調して通貨政策を実施し、EC域内での貿易や投資を、より円滑にしようとした。しかし、ブレトンウッズ体制の崩壊やオイルショックなどに伴う各国の経済政策の相違により、失敗した。当時、経済力の弱かったフランス・イギリス・イタリア等は、自国の経済成長のみを優先させる政策を取るようになり、EC市場は分断されてしまったのである。

しかし、1978年、再びEC市場を統合しようという動きが起きる。そこには、EC市場の分断が域内の貿易や投資を阻害し、EC各国の経済停滞を招いていたこと、ECで主導的な西ドイツ・フランスが、それによって危機感を覚えて協調したことなどといった背景があった。両国では、ほぼ同時期に通貨統合への積極的な首相・大統領が就任したこともあり、EMU創設に向けての動きが加速したのである。

こうして、1979年、EMUの大前提である「EMS(欧州通貨制度)」がスタートした。EMUの基盤をなすEMSは、EC通貨相互の安定を図る目的で、ERM(替相相場メカニズム) [2] 導入、各国への金融支援、ユーロの前身ともいえるECU(欧州通貨単位) [3] の創出を行った。

そして、10年後の1989年、EMSの安定を受けて、次のステップに進むべく「ドロール報告」により、EMU創設に向けての具体的な手順が示された。しかし、それには、新しい機関の設立などの内容が含まれていたため、新しい条約を締結する必要があり、EMU創設に向けての日程までは限定できなかった。その後、1993年のマーストリヒト条約において、ドロール報告の内容を基にEMU創設に向けての日程が規定され、EMS創設に向けての動きが本格化した。

単一通貨導入に向けて

マーストリヒト条約では、ERMにおいて、計算単位として使用されたECUの各国通貨構成比を固定し、さらに、各国通貨の為替相場も固定した。これにより、ECU自体が固有の価値を持つ一つの通貨となり、ECUが単一通貨として導入されることになった。また、同条約には、ユーロ導入のための条件が定められており、各国のインフレ率・財政赤字・政府債務や国内法規と条約の抵触がないかなどの調査が行われ、条件をクリアした国家は、1999年からユーロが導入されることとなった。また、1997年には安定経済協定が結ばれ、ユーロ導入後も財政赤字の縮小を参加国に義務付けた。

このような準備が着々とすすめられ、1999年ユーロはついに導入された。この時期は、ユーロと各国通貨が並存していたが、ユーロ紙幣や硬貨は発行されておらず、ユーロ単位が非現金取引においてのみ使用された。そして、2002年1月1日、各国通貨紙幣の回収とユーロ紙幣の流通が開始され、2002年2月28日、参加国の国内通貨の使用が終了した。

ユーロ現状

1999年当初、イギリス、スウェーデン、デンマーク、ギリシャを除く11カ国で導入された。イギリス、スウェーデン、デンマークは、もともとEMUに参加する意思がなかったが、ギリシャは、ユーロ参加の条件を満たしておらず、参加見送りとなった。その後、2001年に参加し、ユーロ参加国は、EU15カ国中、ドイツ・フランス・イタリア・ベルギー・オランダ・ルクセンブルク・オーストリア・スペイン・ポルトガル・アイルランド・ギリシアの12カ国となっている。ユーロ未参加国の理由は、下記の通りである。

ユーロの運営

 現在、ユーロは、ESCB(欧州中央銀行制度)及びECB(欧州銀行)により、運営されている。ESCBは、EU全加盟国中央銀行から構成されており、ユーロを採用していない加盟国中央銀行も含まれている。ECBは、 ESCB及びユーロシステムの中心に位置する機関であり、ESCB及びユーロシステムに課せられた任務を、欧州中央銀行制度法に基づいて行動、又は各国中央銀行を通じて、確実に実施する。

ここでは、ユーロを運営しているESCBを、「ドロール報告」以降の経済・通貨統合のたどってきた経緯とともに見ていく。ESCBの設立にむけて、EMU(経済通貨統合)は3段階に分けて進められてきた。

第一段階(1990〜1993) 自発的な協調の促進

EU(欧州連合)内における、資本の自由な移動に対するすべての内部的障害を取り払う。

第二段階(1994〜1998) ソフトな通貨同盟

ECBの前身となるEMI(欧州通貨機構) [4] の設立、公的部門の中央銀行からの資金調達の禁止、公的部門の金融機関に対する優越的取引の禁止および過度財政赤字の回避を規定するなど、第3段階に向けての準備作業を行う。

第三段階(1999〜2002) ハードな通貨同盟

貨幣主権を各加盟国からECBに移管し、ユーロを創出する。

ECB

任務

 EUが、経済政策の実施によって、自由競争原則・市場開放原則を維持しつつ物価の上昇を伴わない経済成長や経済的成果の高度な収斂など [5] をめざしており、ECBは、EMU参加国地域(ユーロランド)における金融政策を統一的に運営する中央銀行である。ECBは、主要な目的を「物価の安定」とし、この目的のため、EUの一般経済政策を支援、及び統一的な金融政策を実施(マネーサプライ、物価動向見通し等を指標として使用)する。

ESCBは、ECBと下部組織のNCBs (EMU参加国中央銀行)からなるが、EUの目的を達成するために

  1. 金融政策の策定と実施
  2. 「物価安定を目的として」EUの他の機関との連携による外国為替市場操作の実行
  3. EMU参加国の外貨準備の保有と管理
  4. 決済システムの円滑な運営の推進

を主な任務としており、原則として、ECB単独でユーロ相場にターゲットを設定するようなことはしていない。

政治からの独立性

 マーストリヒト条約では、EMU第3段階で設立されるECBに対して、その権限の行使又は任務の遂行の際は、EU各国政府やEU諸機関からのからの独立性が保障されており、域内各国には第2段階終了までに自国の中央銀行の機構改革を実行すること義務づけられた。

ECBは、ドイツのブンデスバンクをモデルとしており、ECBが実施する金融政策や単一通貨に対して、内外からの信任を得ていくためにはブンデスバンクのような高い独立性が必要となると考えられていた。

ECBの課題

ECBの問題点の本質は、同質的とは言い難い12カ国の地域に対して、統一した金融政策をしかなければならないことに起因する。

  1. 経済状況の差異が大きい各国間において、統一した金融政策は国ごとに効果が異なる。また、財政的・政治的統合がなされない限り、各国間の金利差は完全に消滅しないと考えられ、ECBは単一通貨の中で、同一金融商品について、複数の金利が存在することになる。さらに、各国間の経済格差などによる差異が生じた場合、ECBによる金融政策方針の決定や運営においてNCBsで利害の対立が生じる可能性がある。
  2. ECBが金融政策運営を適切に実施するためのユーロ圏全体をカバーする統計データが 不足している。
  3. 財政政策などに関しては、権限が各国政府に帰属していたため、ECBの金融政策との適合性に疑問の余地がある。
  4. ECBによる金融政策の円滑な運営のために必要な、各国間での税制の調整があまり進展していない。
  5. ECBの内部で、管轄の重複 [6] が見られる。
  6. ECBへの中央集権化が実現しておらず、各国の監督機関に監督業務がゆだねられている。しかし、今日の金融機関の買収・合併は国際的にも行われており、国際的に業務を展開する金融機関に問題が発生した際に、不都合が生じる可能性がある。これに対し、ECBは各国の監督機関と定期的に協議を行うことで問題は解決するとしている。

ユーロの世界経済への影響

世界の中での欧州通貨(ユーロ)

世界の外貨準備高に占める通貨の割合

世界の外貨準備高に占める通貨の割合
      (1999年実績:IMF ANNUAL REPORT 2000)

外貨建て債券の発行状況

世界貿易の表示通貨別内訳
      2000年実績 : BIS Quarterly Review (February 2001)

通貨別発行額(単位:10億ドル)

米ドル

ユーロ

英ポンド

その他

543

441

103

39

12

(2000年、出典:BIS)

ユーロの世界経済における役割 

  1. ユーロの安定は→国際通貨・金融体制、世界経済の安定にとって重要
  2. 米国への影響:米(世界最大の債務国)←→欧州(債権国、経常収支黒字)
  3. ユーロ発足で自信をつけた欧州の姿勢
    →発言力の向上。他方、内向きとなる危険がないか
    →日本としても欧州との協力と日米欧三極協力を一層強化
  4. 主要国際通貨の相場安定のための協力
    →ドルへの過剰依存はアジア通貨危機の一因
    →国際通貨・金融体制の安定に寄与
  5. 円の国際化への努力=円が国際的利用を促進する環境整備等
    →金融市場の整備(短期金融市場の拡充、海外の投資家がわが国の国債に投資しやすい仕組み等の整備)
    →貿易・資本取引における円の使用促進(特にアジア域内で有益)

@ 有効な競争関係にある複数の基軸通貨(exドルとユーロ)が存在するならば、ある基軸通貨(exドル)発行国の政府が通貨発行利益を追求して通貨の価値を低下させると、世界の経済主体はその基軸通貨を利用し保有することを止めて、他の基軸通貨(exユーロ)を利用し保有するようになる。この場合はむしろ、その政府が獲得できる通貨発行利益は小さくなり、したがって、有効な競争関係にある基軸通貨が存在する場合、基軸通貨国は、むやみやたらと通貨成長率を上昇させて、通貨の価値を低下させることが得策でないことになる。

   このようにして、基軸通貨国ドルと有効に競争関係になる通貨(exユーロ)の登場により、基軸通貨ドルの価値が低下することを抑制することができる。

A 複数の基軸通貨(exドルとユーロ)の場合、貿易取引におけるリスクの分散が図られる。

※ アジア通貨危機時の通貨体制

10バーツ=10ドルの通貨体制だったため、バーツと米ドルとの為替レートが悪化して、バーツ安ドル高になってしまった。基軸通貨がドルだけだったので、ドル建てした分をそのまま影響を受けてしまった。

※ 複数の基軸通貨体制

もし、10バーツ=5ドル+5ユーロだったら、バーツと米ドルが悪化してバーツ安ドル高になってしまっても、バーツとユーロとの為替レートがあるのでリスクの分散が図られる。

参考文献


[1] ブレトンウッズ体制:ドルを基軸通貨として、各加盟国通貨の基準相場を設定し、加盟国は、自国通貨の為替変動を、基準相場の上下1%の範囲内に維持することを義務付けられた固定相場制のこと。

[2] ERM(替相相場メカニズム):EC内の固定相場制を維持し、EC通貨相互の為替変動幅を徐々に縮小して、できるだけゼロに近づける。

[3] ECU(欧州通貨単位):EC加盟国通貨を一定の割合で合成したバスケット通貨単位で、ERMや各国への金融支援における計算単位として使用。

[4] EMI(欧州通貨機構):EMIは法人格を有し、EMI総裁やEU加盟国中央銀行総裁からなる理事会により、管理運営された。EMIの業務を集約すると

  1. 域内各国の中央銀行間の協議関係を強化し、通貨・金融政策における協調を推進する。
    ⇒ EMU第2段階から第3段階への移行を円滑にするための作業(インフレ目標値、マネーサプライの中間目標値に関する検討や助言、EMU参加国の達成状況のモニタリングと報告、域内各国への金融政策協調への勧告など)。EMIは、閣僚理事会が作成する「EU経済の一般指針」における金融政策に関して取りまとめる権限を有していたが、各国政府に通貨・金融政策の最終的権限があったことから、諮問機関的な役割にすぎなかった。
  2. ECBとESCBを創設し、設立に関連した技術的準備作業を進める。
    ⇒ EMU第3段階へ移行するための準備作業(単一通貨圏の金融政策と金融政策手段や手続きなどの操作上の枠組み策定、金融関連統計・会計準備の統一、新貨幣やコインのサイズやデザインの決定、効果的な決済システムの構築など)。特に、決済システムに関して、ESCBが管理・運営されることになり、EMU未参加国も連結が可能となっている。
  3. ECU(欧州通貨単位)の利用促進と利用状況を監視する。
    ⇒ 単一通貨導入後における既存通貨建ての金銭契約の継続性や、表示の変更に対して、民間の金融機関や企業・投資家のあいだで不安が生じていたため、公的ECU(EU諸機関および諸地域に対する中長期的融資や金融支援、EMSの運営、域内諸国の外貨準備などに使用されるECU)だけでなく、民間ECU(民間金融市場で融資や債券発行という形で使われるECU)まで利用状況を監視する必要があった。

[5] 他に、高水準の雇用および社会的な保護、生活水準と生活の質の向上、加盟国間における経済的・社会的な結束と連帯の促進を実現すること。

[6] ECB理事会は、加盟国中央銀行総裁も参加し、金融政策の立案・審議する。これに対して、ECBの専門職スタッフからなる金融政策部という部署の管轄が多くの部分で重複している。

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