サイバー犯罪条約

※サイバー刑事法研究会報告書「欧州評議会サイバー犯罪条約と我が国の対応について」で条文及びコメンタリーの仮訳を参照できる。

・サイバー犯罪条約の経緯

・定義

コンピュータシステム、コンピュータ・データ、サービス・プロバイダ、トラフィック・データ

(担保状況:×=未担保、△=未担保の可能性大、○=留保すれば担保可、◎=担保済。)

・刑事実体法

○2条:不正アクセス → 不正アクセス禁止法

○3条:不正傍受 → 商用は電気通信事業者法104条、非商用は有線電気通信法14条

◎4条:データ妨害 → 刑法258条(公用文書等毀棄)・259条(私用文書毀棄)・234条の2(電子計算機損壊等業務妨害)・161条の2(電磁的記録不正作出及び供用)

◎5条:システム妨害 → 刑法233条(業務妨害)・234条の2(電子計算機損壊等業務妨害)・261条(器物破損)

×○6条:装置の濫用 → 不正アクセス禁止法4・9条(パスワードなどの提供行為の禁止)

◎7条:コンピュータ関連偽造 → 刑法161条の2(電磁的記録不正作出及び供用)

◎8条:コンピュータ関連詐欺 → 刑法246条(詐欺)・246条の2(電子計算機使用詐欺)

△9条:児童ポルノ関連犯罪 → 児童ポルノ法

◎10条:著作権及び著作隣接権 → 著作権法

・手続法

△16条、17条:蔵置されたデータ及びトラフィック・データの迅速な保全

△18条:コンピュータ・データの提出命令手続

△19条:コンピュータ・データの捜索・押収手続き

△20条、21条:トラフィック・データのリアルタイム収集及び通信内容の傍受

×22条:裁判権

・サイバー犯罪条約の問題

各国による解釈の裁量が大きく、各国国内法における統一性が少ない。

手続き規定の警察権限強化によるプライバシーの侵害。



サイバー犯罪条約の経緯

サイバー犯罪条約は欧州評議会によって作成。日本は作成過程からオブザーバとして参加していた。2001年11月23日署名開放され、日本はG7を含む30カ国と共に署名する。

本条約は、サイバー犯罪からの社会の保護を目的とする国際的な法的枠組みを定めるものであり、サイバー犯罪の深化・蔓延に効果的かつ迅速に対処するために国際協力を行い、共通の刑事政策を採択することを目指しているものであります。

定義(第1条)

コンピュータシステム → 「電子計算機(スタンドアローンを含む)」(刑法第7条の2他)

コンピュータ・データ → 「電磁記録」(刑法第7条の2)

サービス・プロバイダ → 非商用(closed group)を含むとされる

トラフィック・データ → コンピュータ通信の発信元、宛先、経路、時刻、日付、サイズ、継続時間、使用サービス種類(通信の内容についてはコンテンツデータという)

不正アクセス

「コンピュータシステムの全部または一部へのアクセスを、権限なく故意に行う」行為。

@安全装置を侵害したこと、Aデータ入手目的などの不誠実な意図を持って行ったこと、B他のコンピュータシステムに接続されているコンピュータシステムに関連して行ったこと、を追加的要件として追加することを許容している。

不正アクセス禁止法3・8条は「アクセス制御機能を有する特定電子計算機に」「電気通信回線を通じて」行うことを要件としていて、日本は@とBを採用した立場に相当すると解されている。

不正傍受

「コンピュータ・データの非公開送信の傍受が、権限なしに故意に行われる」行為。

@不誠実な意図を持って行われること、A他のコンピュータシステムに接続されているコンピュータシステムに関連して行われること、追加的要件として追加することを許容している。

通信関連3法(通信事業者法、有線電気通信法、電波法)は通信にかかわるデータを保護対象としていて、一つのコンピュータ内でのデータを保護対象としていなく、日本はAを採用立場に相当すると解される。

データ妨害

「コンピュータ・データを権限なく故意に破壊、削除、劣化、改竄、もしくは隠蔽する」行為。

各国に重大な被害が生じた場合のみ犯罪化する旨の留保を許している。留保した場合の「重大な被害」の解釈は各国にゆだねられている。

システム妨害

「データの入力などによるコンピュータシステムの正当な使用の重大な阻害」行為。

「重大な妨害」については、最終的には各国の基準決定にゆだねている。

装置の濫用

「2〜5条に定める犯罪の実行を目的とした、これら犯罪を容易にする装置・プログラム(ウィルスなど)・パスワードなどの製造、販売、所持などの」行為。

所持行為については、特に明文で、一定数以上の装置等の所持を要件とする旨を宣言することを各国に許容している。基準となる数の決定は各国にゆだねられている。

パスワード等についての販売、配布、その他の方法により利用可能とする行為に限っては留保可能対象から除外されている。

日本では、ウィルス等の装置自体については罰則がなく、データ妨害等具体的な被害が出て初めて刑罰の適用がある。

スタンドアローン・コンピュータを対象とするシステム妨害・データ妨害に使用する意図でパスワードを提供する行為について、担保されていない。

コンピュータ関連偽造

本状の保護法益は「法律関係に影響を与えうるデータの安全性及び信頼性」であり、保護対象となるのは「公文書・私文書と同価値であり、法的効果を持つデータ」である。

コンピュータ関連詐欺

児童ポルノ関連犯罪

「コンピュータによる児童ポルノの流布及びこれに密接に関連する」行為。具体的には、配布目的での製造、提供もしくは利用可能とすること、配布もしくは送信、自己または他人のための調達、所持。

児童ポルノの定義は「あからさまな性的な振る舞いをする未成年者、未成年者であるように見えるもの、未成年者を表現する写実的画像、を視聴的に描写するポルノ」

「ポルノ」については各国の基準による。

「未成年者であるように見えるもの」は成人が未成年を演じている場合。

「未成年者を表現する写実的画像」はCG、コラージュが想定されている。

プロバイダの監視責任までは要求していない。

「自己または他人のための調達」「所持」「未成年者であるように見えるもの」「未成年者を表現する写実的画像」を留保可能としている。

著作権及び著作隣接権

WIPO等の条約に基づく義務に従って、各国で定義された著作権・著作隣接権の侵害行為。

各国が各関連条約に留保、解釈宣言をしているときはそれに限り許される。

未遂、幇助・教唆

@本判の犯罪実行が、幇助・教唆財の前提となっており、よって、本条は独立幇助・教唆はない。A意図せず犯罪の実行を助けていた場合には、幇助・教唆は成立しない。

未遂については各国刑法理論の根幹につながることであるため、全部又は一部の留保が認められる。 → 刑法62条(幇助)・61条(教唆)

法人責任 → 民法44条(法人の不法行為能力)・715条(使用者責任)

制裁と措置

手続法

16条、17条:蔵置されたデータ及びトラフィック・データの迅速な保全

 サービス・プロバイダ等が既に収集・保持したデータに関して、捜索・差押えを実施するまでの一定期間、データの消去等を防ぐことを目的に、データの保全命令を権限ある当局に与えるもの。捜索・差押えを迅速に行うことで担保可能とも言えるが、国際司法共助の観点からの立法化が必要となるか検討が必要。

18条:コンピュータ・データの提出命令手続

 サービス・プロバイダ等に対して加入者情報等のデータを提出させる権限を当局に与えるもの。現行法の捜査関係事項照会で一応の担保は可能とも考え得るが、個人に対する照会は含まれないこと等に鑑みると、捜査機関によるコンピュータ・データ等の提出命令制度の創設を検討することが必要。

19条:コンピュータ・データの捜索・押収手続き

 記憶されたデータに関して、有体物と同様の捜索及び押収の権限を当局に与えるもの。現行法の差押えは有体物を前提としたものであることから、データを対象とした捜索・差押えに関する立法措置を行うことが望ましい。

20条、21条:トラフィック・データのリアルタイム収集及び通信内容の傍受

 特定の犯罪に対する捜査手続の場面における、トラフィック・データ及び通信内容のリアルタイム収集及び記録について規定している。現行の通信傍受法との関係や、技術的な対応方法等、検討すべき課題がある。

その他

22条:裁判権

 条約2条から11条に定められた各犯罪について、自国の管轄権を設定するための基準を規定している。日本人が外国で通信の秘密を侵害する行為(3条に関する自国民の国外犯)及び日本人が外国で不正アクセス禁止法違反を行う行為(2条に関する自国民の国外犯)について担保されていない。

サイバー犯罪条約の問題

・各国による解釈の裁量が大きく、各国国内法における統一性にかける。

この条約は最低限の基準を示しているだけである。本条約はその規定をそのまま形式的に履行することを求めるという厳格なアプローチではなく、むしろ、実効的に履行を確保することを求めるというアプローチを取っているため、「権限なく」や「故意に」という文言の解釈まで各国にゆだねている。

・手続き規定の警察権限強化によるプライバシーの侵害。

サイバー犯罪条約は、トラフィック・データおよび個人データの保全・開示を、「権限ある機関」により要求できる立法を要求されており、プライバシーの侵害につながる可能性がある。

history of update
ver.1.03 2003.12.07 corrected the errors.
ver.1.01 2003.10.19 corrected the errors.
ver.1.00 2003.10.18 opened to the public.


今日: 昨日:
since 2008.09.13